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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)6583号 判決

一 原告主張の請求原因のうち、1の事実(原告が本件実用新案権を有すること)、2の事実(本件考案の構成要件を分説すると原告主張の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)となること)、同4の事実(被告がイ号物件を業として製造販売していること)、同5のうちイ号物件の構成を分説すると(ハ)´を除き原告主張の(イ)´、(ロ)´、(ニ)´となること、同6(3)の事実(イ号物件における舌片採用により孔飛びなどによるピツチ狂いを防止する効果があること)はいずれも当事者に争いがなく、イ号物件であることにつき争いのない検乙第一号証によると、イ号物件の、下面剥離紙に一部を残した切込みにより形成される一部残存の舌片は、被告主張のとおり設けられていることが認められるので、イ号物件の構成を分説した場合の(ハ)´は、舌片を上面主紙の切取り線と同位置でかつ等間隔に列設した、とするのが相当である。

二 そこで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

イ号物件の(イ)´、(ロ)´、(ニ)´の各構成がそれぞれ本件考案の(イ)、(ロ)、(ニ)の各構成要件を充足していることは明らかで、この点については当事者間にも争いがないので、イ号物件の(ハ)´の構成が本件考案の(ハ)の構成要件を充足するかが本訴における争点となる。

そして、本件考案の(ハ)の構成要件は、舌片を上面主紙に設けた切取りミシン目の間隔より小間隔でかつ等間隔に列設したことを要件とし、一方イ号物件の(ハ)´の構成は、舌片を上面主紙の切取り線と同位置でかつ等間隔に列設したとするもので、舌片を切取りミシン目の間隔より小間隔に設けるのに対して、舌片を切取り線と同位置に設ける点において相違があることは前判示のところから明らかであるから、(ハ)´の構成は(ハ)の構成要件を充足しない。

原告は、本件考案における本質的要素が引掛孔として舌片を使用し、その舌片を等間隔に設けた点にあり、舌片を切取りミシン目の間隔より小間隔に設けることは非本質的要素であるとし、本質的要素において一致する以上、イ号物件の構成(ハ)´は本件考案の構成要件(ハ)を実質上充足していると主張するけれども、以下説示のとおり、右主張は失当である。すなわち、

成立に争いのない甲第二号証によると、本実用新案公報の「考案の詳細な説明」欄には、次のような記載のあることが認められる。

1 同行印刷とピツチ送り用ラベルテープにおいて、従来一般に使用されていたラベルテープでは、ピツチ送りの引掛孔を上面主紙と下面剥離紙に貫通し、または下面剥離紙のみに孔を設け、ともに上面主紙の切り取りミシン目と同じ位置に孔を存在させたものであるために、印刷文字を少し多くしたり大きくしたときは、ピツチ送りに少しのズレでも出来ると、文字の一部が孔部にかかつたりときには切り取りミシン目上にかかつたりする欠点がある。この欠点をなくするには単票ラベルの幅を大きくすればよいが、大きくするためには切り取りミシン目の間隔を大きくした上面主紙と、切り取りミシン目間と等間隔の引掛孔を設けた剥離紙と、引掛け爪の間隔を大きくした掻き送り器の三つの全部を別形成して取り替えなければならない不経済があつた。(公報一欄三〇行目から二欄七行目まで)

2 本件考案は、同行印刷とピツチ送り用ラベルテープにおいて、上面主紙の下面に仮着する剥離紙の長手方向の直線上に、例えば後部を残し前部と両側を切込んだコ状の切込みにより形成される一部残存の切込みにより形成される一部残存の切り離し舌片を、上面主紙に設けた切取りミシン目の間隔より小間隔で、かつ、等間隔に列設した印刷同行の取り出しラベルテープにかかるものである。(公報二欄八行目から一六行目まで)

3 本件考案では、引掛孔として右構成の舌片を採用したことにより、従来の小幅ラベルのピツチ送り用の下面剥離紙としても使用が出来るし、ラベル幅を二倍大としたときにも切り取りミシン目の間隔を二倍とした上面主紙を取り替えるだけで下面剥離紙と掻き送り器は原のままのものの利用が出来て取り替えの必要がない。この場合、引掛孔の一部残存の切り離し舌片は切り取りミシン目中間の単票ラベル上に位置するので、ラベル上の印刷時に、印刷面である上面主紙には欠孔部も一重の薄状部もなく全面が同一の二重紙形成となつているので、一部欠字や一部不鮮明となることはない。従来の引掛孔を上面主紙と下面剥離紙とを貫き孔としたものでは、ラベル上の印刷時に、文字に欠部が出来るし、下面剥離紙のみに孔を設けたものでは、孔部が一重の薄状のために、この部だけが薄写りの不鮮明になるという欠点があつた。(公報二欄二二行目から三欄八行目まで)

4 さらに、一部残存の切り離し舌片は、上面主紙と下面剥離紙が分離されたあとも仮着のままで残り、分離するとき外方に向つて反り状を強いられ、反り状のあとに欠孔を外出させて引掛け爪の引掛け嵌入を容易に正確にし孔飛びなどによるピツチ狂いをも併用防止の効果を持つのである。(公報三欄九行目から四欄四行目まで)

右のとおり認められる。

右事実によれば、本件考案は、同行印刷とピツチ送り用ラベルテープのピツチ送りの引掛孔について、従来ラベルテープの剥離紙に打抜き形成されていたことによる欠点の解消を目的とし、その解決のために、剥離紙に一部を残した切込みにより形成される一部残存の切離し舌片を設けたのであり、この点に本件考案の技術的骨子があるものと解することができる(なお、舌片を等間隔に列設することは、掻き送り爪の間隔が等間隔であることに対応させた結果であり、掻き送り爪の間隔が等間隔であることは一定幅のラベルを一枚宛送るという当該技術分野における要請からもたらされている自明の事実である)。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証によると、本実用新案の出願前である昭和四五年一一月二日に頒布された刊行物である特公昭四五―三四〇六二号公報には、剥離紙に一部を残した切込みにより形成される一部残存の切離し舌片を等間隔に列設した技術が記載されていることが認められる。すなわち、右特許公報(乙第一号証)の添付図面及びその説明によると、同公報に記載されたものは、ラベル20を支持する裏当帯状体22に設けられた「フイード・ホール40は完全に切り取られていないで、型打抜の部分はフラツプ状をなしていて」(七欄一四行目から一六行目まで)、すなわちフイード・ホールは前進側の端を打ち抜き後進側の端は残されている」ものであり(七欄三四・三五行目)、ラベル帯状体はピン式繰出ローラ26のピンにより繰り出されるものであつて、フイード・ホールは等間隔に列設されており(第六ないし第八図)、「前進端はピン式繰出ローラ26のピンが接触すると突き抜かれるが、後進端の方はフラツプまたはチヤツドとなつて後側の切り放されない部分を枢軸として曲げられる」(七欄三五行目から三九行目まで)ものであることが明らかであるから、本件考案における剥離紙に一部残存切離し舌片をもうけ、これを等間隔に列設する技術は、右特許公報に記載されていて、本実用新案の出願前公知であつたというべきである。原告は、右舌片(特許公報におけるフイード・ホール)に関する技術が公報の「特許請求の範囲」に記載されていない限り公知とすることは出来ないと主張するが、特許法第二九条第一項第三号(実用新案法第三条第一項第三号)所定の公知刊行物記載を右のように解すべき根拠はないから、右主張は理由がない。

原告が本件考案の本質的要素であるとする、舌片が使用され、これが等間隔に列設されていることが公知であることは右のとおりであるから、本件考案に新規性、進歩性を認めるとすれば、それは、剥離紙上の舌片を上面主紙上の切取りミシン目の間隔より小間隔に設けた点にあると考えるほかなく、この点が本件考案の「考案の詳細な説明」のみならず、「実用新案登録請求の範囲」に構成要件として明記されていることは前判示のとおりであつて、実用新案権の効力範囲を明確にする「実用新案登録請求の範囲」においてこのように明記されている以上、右は本件考案の必須要件であるから(実用新案法第五条第四項)、これを無視することは許されないというべきである。

そうすると、本件考案は「実用新案登録請求の範囲」の記載どおりの構成要件からなるものであつて、舌片の列設間隔が上面主紙の切取りミシン目の間隔より小間隔でないものは、その技術的範囲に属しないものといわなければならない。そして、イ号物件は、舌片の列設間隔が上面主紙の切取り線と同位置にある点で、本件考案とは構成上相違があることは前判示のとおりであるから、本件考案の技術的範囲に属さないこととなる。

原告は、イ号物件は本件考案と同様に上面主紙だけを取り替えることによつてラベル幅を自由自在に拡大することが可能である旨主張するけれども、本件考案は、下面剥離紙のみに関するものではなく、上面主紙と下面剥離紙の両者から構成されるラベルテープに関するものであつて、その構造(下面剥離紙の舌片が「上面主紙に設けた切取りミシン目の間隔より小間隔」に設けられているかどうか)は、両者の相関関係によつてきまるもの、すなわち特定の幅の単票ラベルから構成される上面主紙を基準に考えれば、下面剥離紙にこれより小間隔に舌片を設けたものを使用するか否かによつて、右構成要件を充足するかどうかがきまり、他方、特定の間隔をおいて舌片を設けた下面剥離紙を基準に考えれば、これより大きな幅の単票ラベルからなる上面主紙を使用するか否かによつて、右構成要件を充足するかどうかがきまることになるところ、本件考案はその「実用新案登録請求の範囲」において舌片を「上面主紙に設けた切取りミシン目の間隔より小間隔」に列設した旨明記してラベルテープとしての構造を特定しているのであるから(実用新案法第一条、第三条参照)、現実に本件考案のラベルテープの構造のものを使用しない限り(右使用を認めるに足る証拠はない)、前記構成要件を充足するとはいえず、本件実用新案権を侵害するものということは出来ない。原告の前記主張は採用の限りでない。

三 以上のとおりであつて、被告が業としてイ号物件を製造販売することは原告の本件実用新案権を侵害するものではない。

四 よつて、被告が本件実用新案権を侵害していることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕本件における請求原因は左のとおりである。

1 原告は、次の実用新案権(以下これを本件実用新案権といい、その考案を本件考案という)を有している。

(1) 考案の名称 印刷同行の取り出しラベルテープ

(2) 出願 昭和四五年一二月一四日(実願昭四五―一二五七一七)

(3) 公告 昭和五〇年五月二八日(実公昭五〇―一七三五八)

(4) 登録 昭和五一年一月一九日(第一一一四〇七三号)

(5) 実用新案登録請求の範囲

「同行印刷とピツチ送り用ラベルテープにおいて、上面主紙の下面に仮着する剥離紙の長手方向直線上に、一部を残した切込みにより形成される一部残存の切離し舌片を、上面主紙に設けた切取りミシン目の間隔より小間隔でかつ、等間隔に列設した印刷同行の取り出しラベル。」

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